食品の製造工場や飲食店は、①工場やお店としての建物、②その中にある機械・設備、③そこで働く人、そして④材料となる食品によって成り立っており、その4つが揃わなければ製造や営業ができません。ここまでの6回で、①、②の管理について書いてきましたが、今回は④の食品の管理のための考え方を書きたいと思います。
材料となる食品とは、野菜、肉、魚、そしてその加工品ですが、野菜、肉、魚はそもそもが生き物でした。野菜は畑で生きていて、肉は家畜としての牛、豚、鶏であり、魚は海や川などの中を泳ぎまわっていた生き物です。では、その生き物がどのタイミングで食べ物になるのでしょうか?畑から収穫された時から?屠殺場で屠殺された時から?水の中から捕獲された時から?はたまた、市場や店頭に並んだ時から?様々なケースがあるかと思いますが、野菜は収穫された後でも生きており、魚や貝類は食べられる直前まで生きている場合が多々あります。そう考えると、ほんとに生き物の命を頂いているのだと痛感するのですが、そこに生き物を食べ物として食べようとした時のリスクが生まれてきます。
そもそも我々が食べ物として野菜や肉、魚を食べる時は、それらの内側を主に食べます。つまり生き物として見た時には、肉や魚ではその筋肉が食べ物に変わり、内臓が食べものに変わるケースもあります。野菜は、皮付きのまま食べることもありますし、葉物野菜はそのもの全部を頂くわけで、その頂き方と頂く場所によりリスクが変わってきます。
野菜は収穫された畑の土にいる細菌や農薬、最近では放射性物質などもリスクとして考えなければいけません。人為的なリスク以外にも、野菜そのもの自体に毒となる成分を持つものもあります。
肉はその筋肉を取り出す作業での細菌汚染、つまり作業する人の手や包丁、まな板などからの汚染、さらには動物そのものの内臓や皮からの細菌汚染でリスクの大、小が決まります。他は家畜としての抗生物質や過去には注射針が肉から出てきた事例などもあったそうです。
魚介類は海洋汚染による化学物質のリスクやプランクトンの発生状況による貝毒の発生、更には寄生虫や漁獲後の温度管理の不備によるアレルギー物質の産生など、様々なリスクを抱えており、その魚が自然の中で育ったか養殖で育ったかでもリスクが変わってきますし、同じ魚種でも漁獲される海域でリスクは異なり、例えば今まさに旬の秋サケは沖合の海で捕獲されたか、陸の近くまで泳いできたところを釣り上げられたかでもリスクが変わってきます。
つまり、食べ物を生き物として見ていけば、自ずとそのリスクが見えてくるわけですが、とりわけその育った環境が、食べ物になったときのリスクに大きく影響を与えるであろうと考えます。
そもそも食べ物は自然の恵みだったはずです。それがいつしか、環境汚染や家畜という人為的な生き物を食べることにより、そのリスクの可能性を考えなくてはいけなくなってきたのだと考えます。それゆえに、HACCPの考え方(危害=リスクを除去する調理や製造を行う)を取り入れた安全管理が必要な世の中になってきたのだと思います。これも必然の流れなのでしょうが、ただ食べ物を考える時には、大前提に「美味しいもの」、そして「食べる人の健康につながるもの」とうの理念が必要だと思います。「食の安全」という印籠のもと、薬品などで食品を処理することが本当の安全なのか?20年前に起業した時の疑問とそこで心に抱いた理念を改めて思い出しました。
私の起業の原動力は「美味しい食べ物を食べたい」でした。そして、20年経った今でもそれは変わりません。ただ、20年経って変わったことは、美味しさと安全の両方を実現するときにHACCPの考え方が非常に役に立つと考えるようになったことです。危害を理解すれば、どう調理・製造すれば良いか見えてきます。それが昔の職人の知識と経験であったのでしょう。残念ながら職人がいなくなりつつあるこれからは、科学的な根拠に基づいた危害の理解が重要であり、それゆえのHACCPなのだと考える次第です。