HACCP関連記事2020年11月24日

衛生管理と衛生管理計画 :その10・・・一般衛生管理:生き物を食べ物にする処理方法(お魚編)

 

 前回のお肉編に続き、今回はお魚編です。

 前回のお肉と違って、お魚は自然界にいる魚を追いかけて獲ってきている、いわゆる狩猟時代と同じ食べ物とも言えます。それゆえ、昨今は獲れない魚も増えてきており、イカの街函館でさえもイカの刺身は高級食材、釧路、根室のサンマも毎年の不漁続きで、いったどうなっていくのやら、という状況です。

 私は水産系の大学を出ておりますが、私が大学に入学した頃は「獲る漁業から育てる漁魚へ」と、養殖事業へのシフトが行われ始めた頃でした。今から40年近く前で、札幌の豊平川でも「カムバックサーモン」と銘打って、鮭の稚魚の放流事業が行われ始めていました。その頃から40年・・・マグロやブリ、タイ等、内地を中心にした魚は結構養殖魚が出回っていますが、なかなか広い海にいる魚はその生態が分からないものが多く、また分かったとしても広い海の中、産卵する場所、回遊する海域等、広範囲に活動するものが多く、なかなか思ったようにならないようですね。

 そんなお魚が食べ物になる瞬間はいつなのか?生きたままでも食べるものもありますので、乾かす、焼く、煮るなどの調理をする以前から、魚は漁獲された瞬間に食べ物になるのだろうと思います。そんなお魚を食べ物として扱う際の注意事項ですが、

①獲れた海域の陸からの近さで、その魚が持っている細菌が変わってくるので、どの海域で獲れた魚か?は重要なポイントです。特に、沿岸で獲れる魚や貝類は、腸炎ビブリオの汚染に要注意です。沿岸の海水や海泥の中に潜んでいる細菌で、海水温が15℃以上になると活発になります。ですから夏場に沿岸で獲れた魚介類は要注意です。但し、この腸炎ビブリオは真水に弱く、水道水で皮や鰓を良く洗うと予防できます。

②海の深さと魚の行動も細菌数に影響を与えます。表層で泳いでいる魚か、海底に潜んでいる魚かによっても細菌数や細菌の種類が変わってきます。マグロやサンマのような回遊魚は始終泳ぎ回っているので体表に常に水流が起こっており細菌が付着することができません。それに対してカレイのように海底に潜んでいる魚は、泥の影響を受けますので細菌が多く、それゆえに自身を守るために体表には粘液がありヌメヌメしてます。そのヌメリは漁獲されて陸に上がると逆に細菌の温床になります。

そのため、例えばマグロの刺身とヒラメの刺身では、処理の仕方次第では細菌数に大きな差が表れます。刺身を作る際には、皮のヌメリやウロコをどこまで落とせるかで、細菌汚染の有無が決定されますが、大型のマグロは動物並みの大きさですから、皮を引くときの汚染は起きたとしてもブロックの表面のみで、身の内部はほとんど無菌状態で取り出すことは可能です。マグロとヒラメの差は、お肉編で書いた牛と鶏ほどの差がありますが、内臓の取り出しはお魚は動物よりは身への汚染は抑えられますし、お魚の内臓には食中毒菌はいませんので、ヒラメの刺身も安全に食べることは可能です。

③細菌ばかりでなく、寄生虫の多さもお魚の特徴で、要注意です。特に生で食べる時には寄生虫は要注意です。代表的な寄生虫は「アニサキス」という線虫で、生で食べると胃壁や腸壁に刺入するケースとアニサキスによるアレルギー反応(蕁麻疹やアナフィラキシー)を引き起こす場合があります。基本的には寄生虫は冷凍と加熱には弱いですから一度冷凍するか、加熱をして食べれば安全です。

④漁獲後は漁船内での汚染、人の手、市場の環境、処理での汚染、売り場の環境で様々なリスクが付加されていきます。ここの考え方は、野菜編で書いたのと同じ考え方になります。

その他、お魚ではないですが広く海に住む魚介類の中では、貝類での貝毒や牡蠣のノロウイルス等、様々なリスクを抱えている種類が多いです。いずれにせよ、魚介類は生きている海からの汚染や生き物として備えているそのものにリスクになる可能性が潜んでいます。そんな意味でも、HACCPの考え方を取り入れた衛生管理は、それぞれの食材のリスクを勉強する良い機会になるかと思います。

これまでに何度も書いてきた「生き物としての生きる力」=「危険予知能力」で、危険な食べ物は食べないか安全な処理をして食べてきた「野生」としての記憶が薄れている現代の「人間という生き物」が、安全に野菜やお肉や魚介類といった自然の恵みを食べ物として食べていくためには、やはり「HACCP」という考え方は必要なのだろうと、これまでの野菜編、お肉編、お魚編を書きながら、改めて思う次第です。

この記事を書いた人:小林樹夫

所属:代表取締役 担当:皆の社長(笑)

小樽の漁師町の生まれ
人生の前半を小樽、函館で過ごし、酸いも甘いも色々経験(笑)後半の人生は、死ぬまで札幌で修行の予定。
さていよいよ50代最後の1年、来年は折り返しの年です。頑固でありながらも、いつまでも柔軟な感性を失わない、しなやかな社長=親父=おやじを目指してます❗