台風19号が関東、東北地方に大きな爪痕を残して行きました。北海道には大きな被害がなく、一安心ではありましたが、大きな被害に遭われた方たちの心境を思うと胸が痛みます。一日も早い復旧を願います。それにしても、最近の自然災害を見るにつれ、我々の存在の危うさや、人の力の小ささを思い知らされます。
そもそも太古の地球には酸素がなく、その酸素のない環境に適する形で嫌気性細菌(酸素があると増殖できない細菌)達が地球上に現れました。そして、大きな時間の流れの中で地球上に酸素ができ、酸素を使って生きていく細菌達や植物が現れてきました。その時、地球上の生き物の大先輩である嫌気性細菌達は、酸素から逃れて土の中や海底の奥底など、酸素の無い環境を安住の地として、そして現在まで生きながらえています。ミクロの世界でも、環境に適応しながら子孫(?)を残していく力が備わっているのだな、としみじみ感動します。
我々人間も、恐竜が絶滅した白亜紀の後の時代に現れた小さなネズミから進化したという説がありますが、その真偽はともかく、確かなことは大きな自然環境の変化に適応しながら現在まで存在しているということです。ただ、18世紀後半から始まった産業革命以降、地球環境を破壊しながら存在しているのではないか、とさえ感じるほど、自然からかけ離れた科学の進歩に支えられてここまで生きながらえてきたと感じます。人の力が自然の力を抑えられるか?地球上で起こる様々な現象を、全て科学で解明できるか?人のあくなき興味と好奇心が、自然をも征服できるという錯覚を起こさせているのではないかとさえ感じます。私は大学から30代前半くらいまで、ヨットに乗っていました。風と潮の流れを読みながら進んでいくヨットに乗り、時には自然の脅威に触れ、時には自然の大きさに感動しながら、しみじみと自然の前での人間の力のちっぽけさを感じたものでした。自然の前で、もっともっと人は謙虚でなければならないのではないでしょうか。全てを知ろう、全てを克服しようではなく、人が地球上の生き物として、今こそもっと自然に対して畏敬の念を抱く必要があるのではないかと感じます。
さて、地球上の生き物として、広い意味での大先輩である細菌達ですが、この二十数年くらいの間で劇的な変化(進化)を遂げてきています。医療の分野ではそれ以前から抗生物質の効かない薬剤耐性菌が問題になり、食品の分野では少量で食中毒を引き起こすほどの強い感染力を持つサルモネラ菌やO157、キャンピロバクターにノロウイルス。これは、細菌や微生物達の立場から見ると環境適応の結果であり、人から見ると細菌や微生物たちを抗生物質で攻撃したり、殺菌剤や添加物でいじめた挙句の逆襲を受けているのではないかと思うのです。彼らは単細胞で、単純な仕組みで増殖できる生き物です。それゆえ、進化のスピードも人間の比ではないのです。ここらで衛生管理(公衆衛生や食品衛生)について、見直しが必要なのではないでしょうか。掃除をする、洗浄する、清潔にする、のターゲットを、「除菌」、「除菌」 といって目に見えない細菌やウイルスにする方向から、根本の汚れにシフトして、もっと緩やかで環境に優しい衛生管理を目指すべきだと考えます。急激な環境の変化は、細菌達の急激な環境適応=人への逆襲につながります。細菌や微生物、ウイルスを克服するのではなく、共に共生できる環境を作っていくことを目指す衛生管理をベースに、HACCPに基づく衛生管理の衛生管理計画が立てられればと思います。