ゴールデンウイークに入る1週間ほど前の4月23日、遊覧船「KAZU I」が北海道斜里郡斜里町の知床半島西海岸沖のオホーツク海域で消息を絶ち、船内浸水後に沈没するという痛ましい海難事故がありました。 亡くなられた方にはお悔やみ申し上げるとともに、いまだに行方不明の方には一日も早く発見されることを切に祈ります。
私が生まれたのは漁師町で、小学校のクラスメイトには私も含めて漁師の子供が多く、海難事故で父親を亡くした友達も数多くいました。それ故に私にとっては海の怖さは身近なもので、だからこそ今回のような痛ましい海難事故はあてはならないものだと憤りを感じます。亡くなられた方たちの日常は、海難事故とは無縁の生活であったはずで、楽しい想いで乗り込んだ遊覧船でまさか命を落とすとは・・・無念でいっぱいかと思います。
さて、事故に関しての報道を見ると、運営会社のずさんな管理が見えてきています。通信機器の故障、運航記録の不備・・・これは私の業界の食品安全にも通じる内容で、当然製造機器、及び計測機器が故障していれば安全に製造ができないですし、製造記録に不備があれば日々の製造の中での異常に気付かない可能性が高まります。それをシステム的に行うための手法としてHACCPがあるわけですから、食品事業者の方たちも、別の世界の出来事と知らんぷりをせず、今回の海難事故を教訓に自社のHACCPへの取り組みを含めた安全管理体制の見直しをするきっかけにしてもらえればと思います。
そして何より、今回の海難事故で一番教訓にしてもらいたいのは、この事故に至るまでの過去の事故です。今回の死亡海難事故が起きるまでに、命を落とすほどではない座礁事例や危険な運航状況が数多くあったようです。今回の海難事故の報道を見ていて思い出すのが、2004年3月に起きた六本木ヒルズの回転扉による6歳の男の子の死亡事故です。この死亡事故も、そこに至るまでには扉に挟まれる事例がたくさん起きていて、それに対する抜本的な対策を講じなかったことで死亡事故が起きたのです。ハインリッヒの法則というものがあります。1:29:300という比率で事故が起きるという法則です。ひとつの重大事故が起きる前には29のクレームや軽微な事故があり、その背景には300の現場でのヒヤリハット(あぶなかった~と「ひやり」としたり、「はっ」とするような出来事)があるというものです。まさに今回の海難事故もハインリッヒの法則にはまった感じです。
今まさに、ヒヤリハットが続いている現場があれば、その段階で対策を講じましょう。小さなクレームが続いている現場があれば、本気で現場の見直し・管理体制の見直しを行いましょう。人が死ぬ事故は、海難も食中毒もすべてが人災です。だからこそそれを防ぐのも人なのです。