黄色ブドウ球菌という食中毒菌がいます。今年に入って弊社の検査で検出されるケースが多く、基本的な注意点と事故防止の対策を述べたい思います。
歴史は古く、昭和の時代、私が生まれたころには日本の食中毒の一番の原因だった時代もあるほどオーソドックスな細菌です。発症は、食品中に作られるエンテロトキシンという名の毒素が原因となる典型的な「毒素型」の食中毒菌で、かつ、我々人間が汚染源となる可能性の高い細菌です。食品衛生の分野以外でも、医療の現場ではMRSA(メシチリン耐性黄色ブドウ球菌)という抗生物質の効かない黄色ブドウ球菌が入院患者の床ずれの原因になったり、人の手荒れやけがの化膿の原因になったりと、かなり我々の身近に存在している食中毒菌です。また、口腔内、鼻腔内など咳やくしゃみに関係する部位にも存在しており、さらには頭皮や頭髪にも存在している可能性があり、それ故に、食品を扱う中では要注意な細菌です。ただ、この30年程の時間の中で当たり前になった食品を扱う際の手袋の使用がこの食中毒事故を減らしたのは紛れもない事実である反面、手袋を履いた安心感で引き起こされる事故もあり、身近ゆえになかなか厄介な食中毒菌といえます。
食品を扱う手指に付着するから食品を汚染するのですが、その付着の要因は以下の二つで、それぞれで対策が異なってきます。
①けがや手荒れが原因で発生するケース=その人の皮膚が要因②咳やくしゃみによる「つば」が手指を汚染、頭皮や髪の毛を触って手指を汚染、汚染された食品に触れて手指を汚染、等、二次的に手指が汚染されるケース
①の場合はいくら手洗いをしても防ぐのは無理です。なぜなら、洗っても洗ってもけがや手荒れの部分からまた発生してくるからです。なので、手袋の着用が最大の防御です。ただし、落とし穴があります。つまり、手袋を履こうとする時、最初の手袋は素手で取ります。その時に手袋が汚染を受けるのです。ですから、手袋を着用後に再度手を洗うことが重要です。
②の場合は素手での手洗いで十分に対応できます。なぜなら一時的に汚染を受けただけだからです。
以上のように、この食中毒菌に手指が汚染を受けた原因をしっかり把握しないと、的外れな対応になるケースがあります。特に①のケースは、けがや手荒れを治すことが根源的な対策ですが、治るまでの間は先ほど述べた手袋着用の後の手洗いが有効となります。
検査などで黄色ブドウ球菌が検出された場合には、手指の状況がどのような状況だったかをリサーチした上で、適切な対策をとることが望まれます。